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特集

農業害虫:ハダニ類 生態・被害・防除方法

ハダニの防除方法

ハダニの被害を防ぐには常日頃から作物を見て回り、発生始めに発見することが理想です。しかし、現実的に農家の見回りに投入できる時間、労力、圃場観察の集中力や体力などには限界があり、どうしても発見が遅くなりがちです。よって、日ごろの見回りはもちろんのこと、ハダニの発生源をもとから絶つことが大切です。

ダニSTOP

ハダニの発生源を絶つためのポイント

ハダニが寄生しやすい部位を注意

ハダニが寄生しやすい部位を
作物ごとに把握し、注意して見回る

雑草を除去

圃場内やその周辺の、
発生源となる雑草を除去する

寄生した苗を圃場や施設内に持ち込まない

育苗期のハダニ防除を徹底し、
寄生した苗を圃場や施設内に持ち込まない

雑草を除去

圃場内やその周辺の、
発生源となる雑草を除去する

○薬剤使用上の注意点

●薬剤は生育ステージごとに効果が異なる

ハダニ類は卵・幼虫・若虫・成虫とあらゆる生育ステージが混在します。ダニ剤はステージごとに効果が異なるため、薬剤の特性を把握しながら使用することが大切です。

若虫に寄り添う成虫(赤い球体は卵)

若虫に寄り添う成虫
(赤い球体は卵)

●発生初期の防除が大切

密度が高まってからの防除は効果が劣るため、発生の初期に徹底して防除します。防除の際は、葉裏まで薬液がよくかかるようにすることが重要です。

●同系統の薬剤の連用を避ける

ハダニ類は薬剤抵抗性の発達しやすい害虫です。新規剤でも使用頻度によって、数年で防除効果が低下する事例があります。薬剤の系統をしっかり把握し、同薬剤は連用を避けることが大切です。

●化学合成農薬以外の防除資材

近年では化学合成農薬以外でハダニを防除する資材も増えてきています。ハダニ類の化学合成農薬への抵抗性出現リスクを減らすためにも、このような資材を防除に組合わせていくことが大切です。

ハダニ類の天敵であるミヤコカブリダニ雌成虫

ハダニ類の天敵である
ミヤコカブリダニ雌成虫

○主なハダニ剤の系統と特性

(薬剤は2014年6月末日現在登録のあるもの)

主な化学合成農薬一覧

薬剤成分 薬剤成分が配合された主な商品 作用機構 サブグループ 特長
テブフェンピラド ピラニカ ミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅰ阻害剤 METI剤
  • ハダニの卵から成虫まで全てのステージのハダニに高い活性を示す
  • 殺ダニ効果は速効的で、かつ残効性もある
  • 温度による効果差が少なく、低温から高温までのいずれでも防除効果がある
ピリダベン サンマイト
  • ハダニ、サビダニ、ホコリダニなどダニ類に対して高い効果を示す
  • ハダニの各ステージに活性を示すが、特に幼虫、若虫に対して、低薬量で高い活性がある
フェンピロキシメート ダニトロン
  • ハダニ類の幼・若虫と成虫に対して強い殺ダニ効果を示す
  • 卵に処理した場合はふ化直後に幼虫をよく抑える
  • 速効的に効き、残効性にも優れる
シエノピラフェン スターマイト ミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅱ阻害剤 β-ケトニトリル誘導体
  • 卵、幼虫、若虫、成虫、ハダニ類の全てのステージに有効
  • ハダニ類に速効的に作用し、しかも実用上十分な残効性がある
シフルメトフェン ダニサラバ
  • 新規骨格を有する殺ダニ剤
クロルフェナピル コテツ 酸化的リン酸化共役剤 クロルフェナピル
DNOC
スルフラミド
  • 幅広い殺虫スペクトラムを有し、ハダニ類のほか、チョウ目、カメムシ目、アザミウマ目にも活性を示す
  • 食毒と接触毒の両方の作用性をもつ
アクリナトリン アーデント ナトリウムチャンネルモジュレーター 合成ピレスロイド系
  • 幅広い殺虫スペクトラムを有し、ハダニ類のほか、チョウ目、カメムシ目、アザミウマ目にも活性を示す。
  • 接触作用により速効的に高い殺虫効果を示す。
ビフェントリン テルスター
  • 幅広い殺虫スペクトラムを有し、ハダニ類のほか、チョウ目、カメムシ目、アザミウマ目にも活性を示す
  • 接触作用により優れた速効性を示す
エトキサゾール バロック ダニ類成長阻害剤 エトキサゾール
  • ハダニ類の卵および幼若虫に対し、優れた効果を示す
  • 成虫に対する直接の殺虫効果はないが、本剤を処理された雌成虫が産んだ卵はふ化しない
  • 速効性には欠けるが、殺卵、殺幼虫効果が長続きするので、ハダニの増殖を長期間抑える
ビフェナゼート マイトコーネ 不明確 その他
  • 各種ハダニ類やミカンサビダニに対して優れた効果
  • 成虫、および幼虫に対する効果が高い
スピロジクロフェン ダニエモン アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤 テトロン酸およびテトラミン酸誘導体
  • 全てのステージのミカンハダニ、ミカンサビダニにも作用するが、卵、幼虫に対して特に高い活性
  • 成虫への効果発現は遅効的だが、産卵抑制作用が優れ、また産下卵もふ化しないので、低濃度で長期間ミカンハダニの密度を抑制する
スピロメシフェン ダニゲッター
  • 成虫に対しては遅行的だが、卵・幼虫・若虫に対して高い効果がある
BPPS オマイト ミトコンドリアATP合成酵素阻害剤 プロパルギット
  • ハダニの幼虫、幼若虫に、主に接触的に効果を発現
  • 殺卵性は劣るが、産卵直後の卵に対しては十分な効果を認める
ミルベメクチン コロマイト 塩素イオンチャンネルアクチベーター ミルベマイシン系
  • 天然物由来の殺ダニ剤
  • 成虫、幼虫、卵いずれのステージに対しても低薬量で高い殺ダニ・殺卵効果活性を示す
  • 温度による影響をほとんど受けず、低温時にも効果を発揮する

その他の防除資材(食品添加物由来)

薬剤成分 薬剤成分が配合された主な商品名 特長
還元澱粉糖化物 エコピタ液剤
  • 薬剤抵抗性が発現しやすいアブラムシ類・ハダニ類・コナジラミ類に効果を発揮
  • うどんこ病に対しても効果を発揮
  • 物理的に作用(薬剤が害虫の気門を塞ぐことによって効果を発現)する剤であるため、薬剤抵抗性を発達させる恐れがほとんどないと考えられる
プロピレングリコール
モノ脂肪酸エステル
アカリタッチ乳剤
  • 主成分は食品添加物で、土壌中や生体内などの環境中では容易に炭酸ガスと水に分解されまる
  • 物理的に作用する剤のため抵抗性のつく恐れはほとんどないと考えられる
オレイン酸ナトリウム オレート液剤
  • 気門封鎖による窒息でハダニ防除
  • うどんこ病に対しても効果を発揮
脂肪酸グリセリド サンクリスタル乳剤
  • 野菜のうどんこ病、ハダニ類、アブラムシ類に効果
  • 薬剤耐性うどんこ病菌、薬剤抵抗性ハダニ類やアブラムシ類にも有効
  • 主成分は食用油脂、収穫前日まで使用できる
  • ミツバチに対する安全性が高く、天敵の活動にも影響が少ない
ヒドロキシプロピルデンプン 粘着くん液剤
  • 主成分は食用デンプンの一種
  • 抵抗性害虫に有効
  • きわだった速効性
  • 天敵類やミツバチなどの有益な昆虫への影響は、非常に小さい

天敵農薬

天敵の種類 主な商品名 天敵の特長
チリカブリダニ スパイデックス
カブリダニPP
チリトップ
石原チリガブリ
  • ナミハダニ、カンザワハダニなどを捕食する
  • チャノホコリダニ、花粉などは餌にならない
  • 発育速度はナミハダニ、カンザワハダニより速く、常温で1週間ほどで成虫になる
  • 低温と極端な高温には弱いため、野外では定着が難しい
ミヤコカブリダニ スパイカルEX
スパイカルプラス
  • ナミハダニ、カンザワハダニなどを捕食する
  • 1日当たりの捕食量はハダニ類の雌成虫の場合1〜2頭、卵や幼虫で15頭程度
  • リンゴハダニ、チャノホコリダニ、ニセサビダニ、ミカンキイロアザミウマなども捕食する
  • イチゴやナスなどの花粉も餌となり生存できる
  • チリカブリダニよりも乾燥に強い
スワルスキーカブリダニ スワルスキー
スワルスキープラス
  • ハダニ類、アザミウマ類、コナジラミ類などを捕食する
  • 花粉や微小生物も餌にして生存できる
  • 比較的高温でも生存できるが、低温には弱く気温が15℃を下回ると活動が低下する

監修:元高知県農業技術センター 環境システム開発室 高井幹夫

出典

「クミアイ農薬総攬 2013」 JA 全農肥料農薬部技術対策科
「農薬作用機構分類一覧」(2013年) 一般社団法人 日本植物防疫協会

参考文献

「日本原色植物ダニ検索図鑑」 江原昭三 後藤哲雄 編  全国農村教育協会
「ハダニ おもしろ生態とかしこい防ぎ方」 井上雅央 著  社団法人 農村漁村文化協会
「施設栽培イチゴにおけるカブリダニを利用したハダニ類のIPMマニュアル」
 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター