2015-07-15 最終更新
ナス科作物に特化した種.本邦では2001年に大阪府と京都府のイヌホオズキで発見され,翌2002年にT.takafujii Ehara & Ohashiとして記載された.その後,本種と形態が酷似するT.evansi を世界各国から採集し,両種のミトコンドリアDNA,生殖和合性および形態の詳細な比較検討を行った結果,T.takafujii はT.evansi のシノニムであることが分かった.T.evansi は1960年にモーリシャス諸島のトマトから得た個体に基づいて記載された.分布はモーリシャス諸島,ブラジル,米国・フロリダ半島及びその近隣地域に限られていた.ところが,1990年代以降,急速に世界各国に分布を拡大し,日本には2000年ころに侵入したと考えられている.市販の天敵農薬であるチリカブリダニやミヤコカブリダニは本種を餌とした場合,産卵数や増殖率が著しく低下し,本種を防除できないので,生物的防除を主体としているナス科作物圃場への侵入が警戒されている.2011年までに,東京以西の太平洋沿岸から沖縄県まで分布していることが確認されており,またナス圃場への発生が確認されたため,沖縄県と高知県は特殊報を出している.
形態:
雌成虫の体長は約0.6mm.くすんだ淡橙色~濃橙色.生殖口蓋上の皮膚状線は横走し,そのすぐ前の領域は縦走する.第1脚跗節の基方の二重毛は4本の通常毛とほぼ同一円周上にあり,アシノワハダニと同じであるが,両者は雄の挿入器末端の形態によって容易に識別できる.出糸突起は長さが幅の約1.5倍.雄成虫は0.5mm前後で,乳白色~淡橙色.第2脚爪間体は3対の爪からできているので,「ミツユビ」という和名を与えられたが,1対の爪や3対の毛で構成されているものなど,種内変異のあることが知られている.
加害作物:
【野菜】ナス,トマトなどのナス科野菜
被害と生態:
世界7カ国から採集した個体群におけるイヌホオズキ葉上での卵から成虫までの発育期間は,25℃で9.7~10.7日(雌)と9.3~10.0日(雄).発育零点と有効積算温度は,雌が11.6~12.0℃と136.8~141.8日度,雄が11.7~12.0℃と127.0~133.5日度(池本・高井法による再計算値).総産卵数は143.1~173.5卵,雌比は0.864~0.885.内的自然増加率は0.2667~0.2824/日であり,個体群間に有意差はほとんど見られない.休眠性はない.トマト,ナスなどのナス科植物に特化しており,葉裏に寄生し,寄生箇所を著しく白化させた後,その部位が褐変して落葉する.同種の他個体が寄生した葉に集合する性質をもつため,被害は短期間に急激に拡大する傾向がある.ジンバブエでは,寄生された作物の収量が90%以上も減少したという報告がある.
本種の生息可能地域とされている関東以西の太平洋沿岸地域と九州,沖縄では,ナス科作物に発生している「赤ダニ」について,カンザワハダニなどと決めつけず,必ず同定することを強く勧める.現在までのところ,登録薬剤によって本種の防除が可能である.
(2011.11.10 後藤哲雄)