診断のための特徴的な写真を掲載し、被害、発生、防除、薬剤(農薬)について簡潔に解説しています。
数百卵からなる卵塊からふ化した幼虫が集団で食害し、徐々に分散し大きく成長するので、産み付けられた株と周辺は激しく食害される。放置すれば葉脈のみを残して地上部がほとんど食べ尽くされるような被害になる。日中は地際や土中に潜み、日が暮れた夜に作物を食害することから夜盗(ヨトウ)と呼ばれるが、それは成熟期のことで、それまでの幼虫は日陰や曇天時の日中であれば活動する。キャベツやハクサイなどでは成熟幼虫が結球部に潜り込み、収穫期に甚大な被害を見ることが多い。
キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、コマツナ、ミズナなど全てのアブラナ科野菜、花卉類。きわめて広食性で各種野菜類、花卉類(キク、カーネーション、バラ)などイネ科を除くほとんどの植物を食する。
若齢幼虫は淡緑色、成長すると淡褐色や灰黄色など変異があるが、成熟幼虫は黒みを帯びることが多い。体表の刺毛はほとんど目立たない。頭部および胸脚は茶褐色で、体長は約40㎜に達する。成虫の前翅長は22~24㎜、前翅は暗灰褐色で、黒紋や茶褐色斑などが混じるまだら模様で、不鮮明だが部分的に白い腎状紋がやや目立つ。脚部は灰褐色と灰色の縞々模様に見える。蛹は茶褐色で約20㎜。卵は約0.6㎜のやや平たい球形。産下直後は乳白色でふ化間近になると紫がかった黒色に着色してくる。 成虫は年2~3回発生し、地域によって毎年発生する時期がほぼ決まっている。東京では年2回発生で、1回目は4~5月頃、2回目が8~10月頃発生する。したがって幼虫の1回目の発生は5~6月下旬、6齢を経過して土中で蛹化する。この蛹は夏眠に入り、8月下旬から10月までと春季よりもやや幅を持って羽化してくる。卵は数十~数百個の塊として産下され、ふ化した幼虫は3齢期頃まで集団でいるが、中齢期以降分散して活動することが多い。秋に発生した幼虫が地中で蛹化し、越冬する。北海道など冷涼な地域では夏眠せず、また南九州などでは一部に夏眠しないで続けて3回発生する個体群がある。 北海道、本州、伊豆諸島、四国、九州、対馬、屋久島に分布し、国外では、朝鮮半島、中国、ロシア、インド、トルコ、ヨーロッパなどに分布する。
栽培圃場を見回り発生初期を確認し、防除対策を立てる。幼虫が分散する前の群生期に発見し、その部分だけを処分することがもっとも効果的である。薬剤の効果も若齢期を過ぎると劣ってくる。特にキャベツやハクサイなど結球類の場合には、成熟幼虫に内部へ潜り込まれると防除が難しくなるので、若齢期に防除を徹底する。キャベツやハクサイ、ブロッコリーなどでセル成型苗を利用する場合は、育苗時に薬剤処理する方法が簡易で効果も高い。また、大規模産地では交尾阻害を目的とした性フェロモン剤を設置して密度を抑制する方法もある。フェロモントラップにより、発生予察が可能で、地域の病害虫防除所などが提供する発生情報を入手して発生状況を把握する。
グレーシア(キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー)、コテツ(カブ、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー)、フェニックス(カリフラワー、キャベツ、ハクサイ,ブロッコリー)、プレバソン(キャベツ、ダイコン、ハクサイ)、プレオ(カリフラワー、キャベツ、ダイコン、ハクサイ)、ベネビア(キャベツ、ダイコン、ハクサイ、レタス)、ベリマーク(キャベツ)、マトリック(非結球アブラナ科、ダイコン、ハクサイ、ブロッコリー)、その他、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、BT剤(エスマルク、ゼンターリなど:野菜類)、IGR系、コンフューザーV(性フェロモンによる交尾阻害剤)など多数の農薬が登録されている。作物ごとに登録を確認する。
(竹内浩二)
※掲載している薬剤(農薬)は
2022年1月末現在登録のあるものから抜粋しています。
農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、地域の防除暦や病害虫防除所等の指導に従ってください。
■農薬の登録情報について
最新の登録情報はこちらのページをご確認ください。(FAMIC:外部サイト)
■農薬の作用機構分類(国内農薬・概要)について
薬剤抵抗性の発達を回避するため、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布を心がけてください。
農薬の系統別分類はこちら
(国際団体CropLife International (CLI) の対策委員会が取りまとめた殺虫剤、殺菌剤、除草剤の分類表を農薬工業会が日本語に翻訳:外部サイト)
・殺虫剤(IRAC)2022年6月版(ver.10.3) *PDFデータ
・殺菌剤(FRAC)2022年6月版 *PDFデータ
・除草剤(HRAC)2020年3月現在 *Excelデータ
※実際の薬剤抵抗性対策については、お近くの病害虫防除所等関係機関などの指導に従ってください。
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