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難防除雑草

診断のための特徴的な写真を掲載し、被害、発生、防除、薬剤(農薬)について簡潔に解説しています。

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)

Cyperus esculentus
カヤツリグサ科

地中海沿岸地方原産で、現在では温帯から熱帯にかけて広く分布している。日本では1980年代に栃木県の酪農家の圃場で初めて発生が確認され、現在では東北地方から四国・九州までの各地に帰化し、分布が拡大している。牧草地や飼料畑、大豆畑などの畑地だけでなく、早期水稲栽培地帯などの水田にも発生がみられる。塊茎は耕起作業にともなって拡散し、塊茎から発生した個体は通常の土壌処理剤では枯殺することができないため、慣行栽培を続けているとやがて圃場全体が本草種で覆い尽くされる事態に陥ってしまう。
一見、在来のハマスゲと似ているが、幼植物の葉が斜上する(ハマスゲはロゼット状に垂れる)点や花の色が黄色い(ハマスゲは赤紫色である)点、塊茎が球形をしている点、根茎の途中に塊茎を付けることがない点などから区別できる。

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ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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ショクヨウガヤツリ幼植物 ©全農教

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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ショクヨウガヤツリ成植物 ©全農教

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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根茎および分株の発達状況 ©植調協会

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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ミズガヤツリに似た黄色い花を咲かせる ©全農教

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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短日条件では速やかに塊茎を形成する性質がある ©全農教

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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塊茎の比較 上がショクヨウガヤツリ、左下がハマスゲ、右下がミズガヤツリ ©植調協会

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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土壌処理剤による一時的な発生抑制効果 (左半分が無処理区、右半分がゲザノン処理区) ©植調協会

ショクヨウガヤツリ(別名キハマスゲ)
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土壌処理剤と茎葉処理剤の体系処理による抑制効果(左:無処理区 右:ゲザノン→シャドー処理区) ©植調協会


生態

種子と塊茎で繁殖する多年生雑草である。種子の発芽率は10%以上であるが、慣行で土壌処理用除草剤が散布されている畑地では、主に塊茎によって増殖する。塊茎は12~15℃でも旺盛な萌芽を示し、畑条件では土中20cm以深からも萌芽する能力があり、春から秋まで長期にわたって発生を続け、晩秋に地上部が枯れる。
茎は断面が三角形で、草高は通常30~90cm程度だが、堆厩肥が多投される飼料畑などでは150cmに達することもある。
発生後すぐに白地に褐色の縞模様(鱗片)がついた根茎を地中に伸ばし、その先端に子株を作ることを繰り返すことによって多数の分株を形成する。夏から秋にかけて花茎が伸び、先端にカヤツリグサやミズガヤツリに似た黄色い花をつけるが、この頃になると分株の形成がおさまり、根茎の先端に塊茎が形成されるようになる。
1個の塊茎から出芽した個体が1シーズンで数百個から数千個の塊茎を作ることが知られているが、塊茎形成は短日条件で促進されるため、秋口に遅れて発生した個体や早春に発生した個体は、地上部が十分に育つ前に速やかに塊茎を形成する。
茎葉部と塊茎をつなぐ根茎は非常に切れやすく、塊茎ごと引き抜こうとしてもほとんどの塊茎は地中に残ったままとなり、このことも防除を難しくしている要因の一つである。
筆者らが飼料用トウモロコシ畑で調査した結果、形成された塊茎のほとんどが次年度中に出芽または死滅したことから、翌年への繁殖器官の持越しは少ないと考えられる。

防除

圃場内でショクヨウガヤツリの発生を確認したら、まずは塊茎を拡散させないことが大切である。塊茎は耕起作業時のトラクターの移動にともなって圃場内ばかりでなく他の圃場にも拡散するので、耕起作業はショクヨウガヤツリが発生していない圃場から先に行い、作業終了後はトラクターについている土をきれいに洗浄する必要がある。
ショクヨウガヤツリの塊茎は乾燥に弱いので、冬期間に耕起を繰り返して塊茎を乾燥した空気にさらすことが有効である。また水田では、ミズガヤツリなどと同様に湛水条件下で塊茎が完全に土中に埋められると萌芽できなくなるため、ていねいな代かきを行い、湛水を続けることによって発生を抑制することができる。
しかし、一度繁茂してしまったショクヨウガヤツリをこれらの耕種的方法だけで十分に防除することは難しいため、以下に示すような除草剤を使った化学的防除が必要となる。

薬剤(農薬)

【畑地】
飼料用トウモロコシ畑や大豆畑では、作物播種後にラッソーやラクサー、フィールドスターP、ゲザノンゴールド、エコトップ、ボクサーなど、カヤツリグサ科雑草の発生を抑制する成分を含む土壌処理剤を散布することで、作物の苗立ちを確保する。その後に発生してきたショクヨウガヤツリに対しては、飼料用トウモロコシの場合はシャドーを茎葉処理することで長期間の抑制が可能である。一方、大豆の場合は大豆バサグランの茎葉処理が有効とされている。
【水田】
既発生雑草を枯らすためにラウンドアップマックスロードやタッチダウンiQ、サンフーロンなどのグリホサート剤を散布してから耕起し、ていねいな代かきを行った後に水稲苗を植付け、アッパレZや天空、ゼータタイガー、銀河、コメット、月光など多年生カヤツリグサ科雑草に高い効果を示す成分を含む一発処理剤の散布を行い、その後もし再生が目立つ場合には、中・後期剤のハイカットやワイドアタックなどを散布するかバサグランを茎葉散布する方法が有効と考えられる。
(村岡哲郎)

※掲載している薬剤(農薬)は 2021年5月末現在登録のあるものから抜粋しています。
農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、地域の防除暦や病害虫防除所等の指導に従ってください。


■農薬の登録情報について
最新の登録情報はこちらのページをご確認ください。(農林水産省 農薬登録情報提供システム)

■農薬の作用機構分類(国内農薬・概要)について
薬剤抵抗性の発達を回避するため、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布を心がけてください。

農薬の系統別分類はこちら
(国際団体CropLife International (CLI) の対策委員会が取りまとめた殺虫剤、殺菌剤、除草剤の分類表をクロップライフジャパンが日本語に翻訳:外部サイト)

RACコード(農薬の作用機構分類)

※実際の薬剤抵抗性対策については、お近くの病害虫防除所等関係機関などの指導に従ってください。

収録:防除ハンドブック「 難防除雑草

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