診断のための特徴的な写真を掲載し、被害、発生、防除、薬剤(農薬)について簡潔に解説しています。
ヨーロッパ、西アジア原産の帰化植物である。名の由来は食用にならずにカラスが食べる麦とする説があり、別名はチャヒキグサという。日本では、北海道から九州の畑地、休耕地、道端、河川敷、荒れ地などに発生し、麦作内に発生するカラスムギは難防除雑草である。
栽培種のエンバクに似るが、エンバクの小穂は熟しても脱落しないのに対し、カラスムギの小穂は熟すると脱落することから結実期以降には明確に識別することができる。
種子で繁殖し、主に秋期に発生して越冬後、春~初夏に出穂、開花する越年草である。草丈は60~100cm、茎は柱形で中空。葉は長さ10~25cm、互生で細く先がとがる。茎の先から大きな穂を出し、2~3cmの小穂をつけ、小穂には長い芒(のぎ)がある。
関東以西の畑麦圃場で発生し問題になっている。幼植物は麦類に似ていることから、出穂期まで気がつかない場合が多いが、大麦、小麦は葉の付け根に茎を抱くような葉耳があるのに対しカラスムギには葉耳がなく、大麦、小麦の葉は右回りにねじれるのに対しカラスムギは左回りにねじれる点で異なる。しかしいずれも近寄ってみないと区別がつかず、圃場の外からでは見分けられない。麦作で発生する大部分の雑草は土壌表層から発生するが、カラスムギは地表下10㎝を超える深い位置からも発生し、その期間も長く春期まで及ぶことが土壌処理剤による防除が難しい要因となっている。
耕起や播種時期などの耕種的方法および除草剤の利用が中心となる。開花、結実前の早春期までに防除することが翌年の発生源を抑える意味で有効である。刈り払いでも防除できるが、株元からの再生があるため複数回の管理が必要になる。
麦作では、播種前からカラスムギが発生している場合があり、播種前の耕起作業でよくすき込まないと再生し、これらは土壌処理剤が効きにくいため、播種時までに茎葉処理除草剤やていねいな耕起で防除しておくことが大切である。また晩播と播種前の防除を組み合わせることで播種後のカラスムギの発生量を減らすことができる。麦立毛中にカラスムギがみられた場合は、発生量がわずかであっても結実前に手取りし、種子を落とさないようにすることが重要である。多発圃場では作付することは困難であり、耕起や非選択性の除草剤で徹底的に防除する必要がある。カラスムギ種子が圃場内で脱粒した場合は、収穫後すぐに耕起をせず種子を土壌表面に残すと、虫や鳥が種子を食べることにより残存種子数がかなり減るとの報告がある。
カラスムギの種子は湛水条件で容易に死滅するため、水稲作との輪作も有効であり、種子の寿命は環境条件の違いで異なるようであるが、寿命が短い傾向が認められている。現にカラスムギ多発により小麦の収穫を放棄した圃場で、作付を行わずに年数回の耕起作業を3年間継続した圃場では、その後の麦作でカラスムギの発生が激減した事例がある。
現在は決め手となる登録除草剤がないため、耕種的手法を組み合わせて防除を行い、少しでも圃場内のカラスムギを減らすことが大切である。
【農耕地】
生育期の雑草を枯らす非選択性茎葉処理剤にはラウンドアップマックスロード、タッチダウンiQ、サンフーロンなどのグリホサート剤、バスタ、ザクサなどのグルホシネート剤、プリグロックスLなどがある。作物栽培前にカラスムギが発生している場合は、移行性のあるグリホサートを含む薬剤が有効である。作物の畦間、圃場周辺などの作物に接した部分の防除には移行性の少ないグルホシネート剤、プリグロックスLが適しているが、薬液が十分に付着しないとカラスムギが完全に枯れずに再生する場合があるので、作物にかからないように規定の希釈水量でていねいに散布する。また、麦の植付け前に石灰窒素を散布し耕起しておくことで地中からのカラスムギの発生を促し、生え揃った時点でこれらの非選択性茎葉処理剤を処理することで、その後の発生量を減らす効果が認められている。
播種もしくは定植後に発生する雑草を防除するための土壌処理剤は、雑草防除の基本になる。現在、麦用の土壌処理剤でカラスムギに卓効を示す薬剤はないが、トレファノサイドの効果が比較的高く、ガレースやシナジオなどでもカラスムギの発生量をある程度減らすことができる。いずれもカラスムギ防除には麦用としての登録薬量内の最高薬量を用いる。ただし、単一成分のトレファノサイドは、キク科やアブラナ科などの効きにくい雑草種もあるため、これらが多発する圃場では、これらに効果のある他剤との組み合わせ処理が必要である。
作物生育期に発生している雑草を防除する選択性茎葉処理剤には、ホーネスト、ワンサイドPなどがある。これらはイネ科植物を選択的に枯らすため、麦作では使えないが、野菜畑などに発生したカラスムギ対策として使用できる。ただし、雑草が大きくなりすぎたり、繁茂して雑草の茎葉部に薬液が十分にかからないと薬剤の効果が劣るため、ラベルの表示に従って早めに散布することが大切である。
【畦畔・農道や家周りなど】
道端、空地等に発生したカラスムギの防除は、発生が出そろった時期に前述の農耕地で登録のある非選択性茎葉処理剤を散布する。
(金久保秀輝)
※掲載している薬剤(農薬)は
2021年5月末現在登録のあるものから抜粋しています。
農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、地域の防除暦や病害虫防除所等の指導に従ってください。
■農薬の登録情報について
最新の登録情報はこちらのページをご確認ください。(FAMIC:外部サイト)
■農薬の作用機構分類(国内農薬・概要)について
薬剤抵抗性の発達を回避するため、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布を心がけてください。
農薬の系統別分類はこちら
(国際団体CropLife International (CLI) の対策委員会が取りまとめた殺虫剤、殺菌剤、除草剤の分類表を農薬工業会が日本語に翻訳:外部サイト)
・殺虫剤(IRAC)2022年6月版(ver.10.3) *PDFデータ
・殺菌剤(FRAC)2022年6月版 *PDFデータ
・除草剤(HRAC)2020年3月現在 *Excelデータ
※実際の薬剤抵抗性対策については、お近くの病害虫防除所等関係機関などの指導に従ってください。
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