診断のための特徴的な写真を掲載し、被害、発生、防除、薬剤(農薬)について簡潔に解説しています。
カミツレ類は北日本特に北海道におけるコムギ畑(秋播き、春播き共通して)で難防除雑草として問題となっている。特にイヌカミツレは広い地域で発生し、その他にナタネタビラコ、カミツレモドキなどが局所的に発生している。これらはいずれも欧州原産で、輸入された飼料に混入して渡来した越年一年生帰化雑草である。これら草種の生活環は、コムギ栽培と合致するため、広範囲で多く発生し繁茂するのが見られるが、道内での発生分布には明確な地域性がある。
イヌカミツレは北海道のコムギ畑でしばしば大群落を作って発生し、雑草害による減収をもたらしている。1990年代前半までコムギ畑の強害難防除雑草として網走・上川・道央地方で広範囲に繁茂していたが、90年代後半以降、ジフルフェニカンを含有するガレース剤が実用化され、広く普及するとともにイヌカミツレの激発畑は減少した。しかし、秋播コムギ播種後に除草剤散布の適期を逸した畑やさまざまな理由により裸地化した畑においてイヌカミツレが繁茂し、減収の要因となっている。
イヌカミツレは種子で繁殖する。休眠性はなく、秋播きのコムギ出芽期前後から発生し、芽生えの後やや多肉質のロゼット状で越冬する。一部は春にも発生する。翌年、コムギ出穂期ごろの6月上旬から開花し、コムギ成熟期の7月中旬以降に結実する。
種子生産量は1万~20万粒/株と非常に多く、コムギ収穫作業によって多量の種子が畑に散布される。発芽温度は最適20℃、最低2~5℃である。土中からの発生深度は1㎝以内と浅く、2㎝以上の深さからは出芽しない。土中種子の寿命は5年~20年と長い。
茎は直立し、中位部以上から多数の分枝が直立または斜立し、先端に一つの花序をつける。草丈は50~100㎝で、コムギの穂先よりもやや高くなる。葉は羽状に細裂する。花序の直径は30~40㎜ほど、周縁部の白色の舌状花と中心部の黄色の管状花からなる。無臭である。
種子の出芽率は多湿条件では高く乾燥条件で低下するため、北海道での発生量は土壌が多湿となりやすい秋播コムギ栽培の方が多く、乾燥土壌となりやすい春播コムギ栽培での発生量は少ない。
秋期に発生したイヌカミツレの大部分の個体は越冬するが、越冬率は冬期間の寒さの程度によって左右される。イヌカミツレは直根性であるため厳冬地帯では断根や凍上害などを受け越冬率が低下するため、厳寒・寡雪で土壌凍結の深い十勝地方の方が寒冷・多雪の道央地方よりも越冬率は低くなり、繁茂しにくい。これらのことから、北海道の秋播コムギ畑における発生分布には地域性が明確に認められ、土壌水分が高い道央・上川地方の水田転換畑地帯に多く発生し、冬期間に土壌が深く凍結し、乾燥しやすい十勝地方の畑作地帯での発生は比較的少ない。
カミツレモドキは、キク科の異属であるものの花の形態がイヌカミツレに酷似し、悪臭を放つ。草丈はコムギの穂先よりやや低い。葉もイヌカミツレに酷似し、細い葉片は反り返る。北海道での繁茂は少ないが、東北地方の秋播コムギ畑での発生が多い。
ナタネタビラコは、キク科の異属で、空知、上川地方のコムギ畑に偏在している。下位部葉はダイコンの葉に似て深く裂けるが、上位部葉は長細く先端がややとがっている。茎は直立し、茎上位部で分枝し、直径1cm程の黄色の舌状花のみからなる花序を多数つける。草丈はコムギと同程度である。
秋播コムギ畑では越冬した雑草は葉齢も進み、葉齢の進んだイヌカミツレに卓効を示す剤はないので、播種後の適期に除草剤を散布し、秋期のうちに雑草防除を確実に行うことがきわめて重要である。それに加えて、コムギ栽培の基本技術として、越冬前の雪腐病防除を確実に行い、越冬期間中における雪腐病激発による裸地の発生を回避すること、また、長期間の圃場滞水・結氷に起因するコムギ冬枯れによる裸地の発生やコムギ連作による生育不良や倒伏などを生じないようにすることが肝要である。
コムギ畑に発生するイヌカミツレに対して卓効を示す有効成分はジフルフェニカンであり、これを含むガレース剤、ガルシアが有効である。両剤の使用適期は、秋播・春播コムギとも、播種後~コムギ3葉期、雑草発生前~発生始期であるが、コムギ播種後出芽前、雑草発生前~発生始期の全面土壌散布が最も安定した高い効果を示す最良の使用時期である。
なお、翌春になってイヌカミツレの発生が目立つ場合には、窮余の策としてハーモニー、バサグラン、MCPソーダ塩などのMCPA剤をコムギ幼穂形成期に使用基準内の高薬量で使用することにより、ある程度の除草効果が期待できる。
(吉良賢二)
※掲載している薬剤(農薬)は
2021年5月末現在登録のあるものから抜粋しています。
農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、地域の防除暦や病害虫防除所等の指導に従ってください。
■農薬の登録情報について
最新の登録情報はこちらのページをご確認ください。(FAMIC:外部サイト)
■農薬の作用機構分類(国内農薬・概要)について
薬剤抵抗性の発達を回避するため、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布を心がけてください。
農薬の系統別分類はこちら
(国際団体CropLife International (CLI) の対策委員会が取りまとめた殺虫剤、殺菌剤、除草剤の分類表を農薬工業会が日本語に翻訳:外部サイト)
・殺虫剤(IRAC)2022年6月版(ver.10.3) *PDFデータ
・殺菌剤(FRAC)2022年6月版 *PDFデータ
・除草剤(HRAC)2020年3月現在 *Excelデータ
※実際の薬剤抵抗性対策については、お近くの病害虫防除所等関係機関などの指導に従ってください。
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