診断のための特徴的な写真を掲載し、被害、発生、防除、薬剤(農薬)について簡潔に解説しています。
全国に分布し、水田から乾いた畑地や路傍までさまざまな条件で発生する。広義のイヌビエは草姿や開花結実の時期が異なるヒメタイヌビエ、ヒメイヌビエ、イヌビエなどの変種を含んでいる。水田ではタイヌビエなどとともに「ノビエ」と呼ばれる。1株から生産される種子の数は40,000個にも及ぶ。繁殖力が旺盛で水稲をはじめとするさまざまな夏作物の栽培現場で多発し、被害が大きく経済的に最も問題視される難防除雑草の一つである。
種子で繁殖する夏生の一年生雑草。成長が早く種子生産が旺盛で、発芽後2か月以内に開花結実することができる。
種子には休眠性があり発生期間は長く、耕したばかりの緩い土より締まった土でよく発芽し、気温が高い条件(30℃程度)で旺盛に成長する。日当たりが良く湿った場所を好むが、乾いた環境でも発生する。乾燥した畑条件では湛水した水田条件に比べて土中深くに埋没した種子からでも発生できるが、草丈は低く分げつや小穂の数が減るため、個体あたりの種子の生産量は少なくなる。
春に発生した場合は10日ほどで分げつをはじめ、1か月ほどで15本程度になってから開花結実することが多いが、夏から秋に発生した場合は若く小さい個体でも種子生産をはじめる短日植物である。
イヌビエの種子は湛水しても発芽するため、田畑輪換を行っても耕種的に発生を減らすことはできない。草刈りをしても再生しやすいため、防除は除草剤の利用が中心となる。特に開花、結実前に防除することで翌年の発生源を抑えられる。
近年は除草剤に対して抵抗性を示す系統も確認されはじめていることから、同じ除草剤を連用せずに作用機構が異なる剤を使用することを意識する。イヌビエに効果がある除草剤は多く、製品ラベルの適用雑草に「一年生雑草」または「一年生イネ科雑草」の記載がある剤で防除することができる。水稲用除草剤の場合はラベルに「ノビエ」の記載があるもので防除できる。
植付前の畑で耕起前に生育しているイヌビエに対しては、草枯らしMIC、サンフーロン、ラウンドアップマックスロードなどのグリホサートを有効成分にもつ非選択性の茎葉処理型除草剤を全面処理するのが効果的である。散布水量の幅が広いが、水量に合わせて適切なノズルを使用する必要がある。
耕起後まだ作物が出芽する前であれば、トレファノサイド、ゴーゴーサン、ラッソー、デュアールゴールド、ボクサー、フィールドスターPなどの土壌処理型除草剤を全面処理して発生を抑制する。このような土壌処理剤は有効な成分の種類が比較的多く、単剤または混合剤として製品化されており、粒剤や乳剤など剤型も選ぶことができる。砕土、整地をていねいに行って適切に処理すれば、発生の防止効果が1か月以上持続する。作物に薬害を及ぼさないためには種子が露出しないように覆土するなど注意も必要である。
作物の生育期の防除としては、イネ科作物(イネ、ムギ、トウモロコシなど)以外であれば、作物が生育していても既に発生しているイヌビエに対してホーネスト、セレクト、ワンサイドP、ナブ、ポルトフロアブルなどイネ科雑草用の茎葉処理型除草剤を全面処理することができる。ただし、作物が繁茂すると薬液が雑草にかかりにくくなったり、イヌビエが30㎝以上に大きくなると枯殺効果が劣るので、処理適期を逸しないように注意する必要がある。また、作物に残留しないように処理時の収穫前日数にも配慮が必要である。
(穂坂尚美)
※掲載している薬剤(農薬)は
2021年5月末現在登録のあるものから抜粋しています。
農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、地域の防除暦や病害虫防除所等の指導に従ってください。
■農薬の登録情報について
最新の登録情報はこちらのページをご確認ください。(農林水産省 農薬登録情報提供システム)
■農薬の作用機構分類(国内農薬・概要)について
薬剤抵抗性の発達を回避するため、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布を心がけてください。
農薬の系統別分類はこちら
(国際団体CropLife International (CLI) の対策委員会が取りまとめた殺虫剤、殺菌剤、除草剤の分類表をクロップライフジャパンが日本語に翻訳:外部サイト)
RACコード(農薬の作用機構分類)
※実際の薬剤抵抗性対策については、お近くの病害虫防除所等関係機関などの指導に従ってください。
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