診断のための特徴的な写真を掲載し、被害、発生、防除、薬剤(農薬)について簡潔に解説しています。
本病はオオムギとコムギに発生するが、オオムギにはオオムギ縞萎縮ウイルス(BaYMV)が、コムギにはコムギ縞萎縮ウイルス(WYMV)が感染して引き起こされる土壌病害である。また、病原ウイルスは相互の麦種に感染して発病することはない。
オオムギ縞萎縮ウイルス(BaYMV)には病原性が異なるⅠ~Ⅴ型の複数の系統が認められ、発生系統によっては抵抗性品種が発病することがあるが、感受性品種に比較して被害は軽微である。本病ならびにムギ類萎縮病の外観病徴は酷似しているため、目視による判別は困難である。本病の病徴は、はじめ茎葉に黄緑色で細長いかすり状の斑点が生じ、2月~3月の発病最盛期には株が萎縮して分げつが減少する。葉身前面にモザイクが現れ、黄化が甚だしくなるとともに下葉は黄変し、褐色の壊死斑点を生じる。きわめて弱い品種では枯死に至ることもある。4月以降、モザイク病徴は気温の上昇とともにしだいに消失して不明瞭となるが、罹病株は健全株に比して草丈が低い。株の萎縮が著しく、茎長が低くなるほど減収するが、減収程度は麦種や品種間差が大きい。
ウイルスは土壌中に生息するネコブカビ類の一種、ポリミキサ・グラミニス菌の媒介で播種10日後~1か月位の間に根から感染する。発病は、早春の新葉伸長開始後で、この時期には新たな感染およびまん延はない。ウイルスの増殖適温は10~15℃で、媒介菌の遊走子は土壌中を泳いで根に侵入するため、播種1か月位の地温が15℃前後でかつ適度の降雨があった年に感染が多い。そのため、一般に適期播種した麦に発生が多い。土壌伝染病で、ウイルスは3~15cmの土壌に存在する。トラクタのロータリ等に付着した汚染土壌によって他圃場に拡散する。5aの健全水田の中央に10㎏の汚染土壌を投入し、夏作は水稲、冬作は二条オオムギを栽培して圃場内のまん延を調査したモデル実験では、発病がまん延して圃場全体が黄化するまで7年間を要した。水田では汚染源が代かき作業で広がるため、圃場全体に発生することが多いが、畑では、はじめ局所的(筋状あるいは坪状)に発生し、圃場耕起方向に広がる傾向にある。一度発生した圃場では、5年間以上オオムギを休作しても無病化しない。しかし、オオムギ縞萎縮ウイルス(BaYMV)に対して免疫性のコムギを栽培すれば、本病の被害を回避でき、2~3年コムギを栽培した跡地では、罹病性オオムギを栽培しても実質的な被害は生じないほどに発病は低減する。ただし、コムギ栽培跡地に罹病性オオムギを3連作すると発病は元のレベル以上に甚だしくなる。
それぞれの地域で普及している抵抗性品種を利用する。発病圃場の土壌や被害株の根部残渣が伝染源となるため、農作業は発病した圃場を最後にして、伝染源を無病畑にもち込まないようにするとともに、作業後は機械に付着した土を必ず洗い流す。
登録農薬はない。
(渡邊健)
※掲載している薬剤(農薬)は
2022年1月現在登録のあるものから抜粋しています。
農薬の使用にあたっては必ずラベルを確認し、地域の防除暦や病害虫防除所等の指導に従ってください。
■農薬の登録情報について
最新の登録情報はこちらのページをご確認ください。(FAMIC:外部サイト)
■農薬の作用機構分類(国内農薬・概要)について
薬剤抵抗性の発達を回避するため、同一系統薬剤の連用を避け、ローテーション散布を心がけてください。
農薬の系統別分類はこちら
(国際団体CropLife International (CLI) の対策委員会が取りまとめた殺虫剤、殺菌剤、除草剤の分類表を農薬工業会が日本語に翻訳:外部サイト)
・殺虫剤(IRAC)2022年6月版(ver.10.3) *PDFデータ
・殺菌剤(FRAC)2022年6月版 *PDFデータ
・除草剤(HRAC)2020年3月現在 *Excelデータ
※実際の薬剤抵抗性対策については、お近くの病害虫防除所等関係機関などの指導に従ってください。
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